夢の中のエレベーター

エレベーターに一人で乗っているとき。ほんとに確かに目的の場所に着けるのか。そんな不安が、ふと頭をよぎる。そんなときがある。 ほかの人が乗っていても、着いた階で、たった一人で降りたとき、ここは目指す場所であるのかと、妙に不安になってくる。 夢の中のエレベーターは、それはそれは恐ろしい。 夢の中のエレベーターは、真っすぐ上に昇るとは限らない。真横に、斜めに、ゆっくりと回転しながら昇っていく。 夢の中のエレベーターは、どこに連れていくのか、わからない。 高層ビルの途中で止まる。そこはオフィス。どうも昔に勤めていた会社のようだ。 「おかえりなさい」と声がする。中途退社した私なのに、何事もなかったかのようだ。 しばらく過ごし、ふたたびエレベータに乗る。 少し上の階で停止する。そこもオフィス。どうやらこここは、独立した私が一番お世話になった得意先のようだ。 「あ、いらっしゃい」そして「やあ、しばらくぶりですね」とつかしい顔の人たちが声をかけてくる。 「ご無沙汰です。みなさん、お元気そうで何よりです」 しばらく談笑し、忙しそうな雰囲気に遠慮して「ではまた」と退室する。 そして、またエレベータに乗る。 夢の中のエレベータは最上階に止まり、扉が開く。出ると、外は見たことがない世界。ここは、ひょっとすると黄泉の世界かも知れない。そんな直感がした。 あわてて引き返した。扉はすぐに開いた。一階を押した。夢の中のエレベータは猛スピード降りた。だが、一階を通り超し、地下へ地下へと進んでいく。 やがてエレベーターが停止しドアが開いた。ビルの地下室と思えた。誘われるように外に出る。頭上に薄明かり。見える先は暗い闇が続く。物音ひとつしない。振り返ると、いまさっき乗ってきた夢の中のエレベーターの扉は消え、そこには薄明かりが斜めに差した白い壁があるだけだった。